【おいしく楽しく疲労回復】

手軽にぬか漬け

ぬか漬けが今、ちょっとしたブームになっている。手軽な家庭用のぬか床が普及し、入門のハードルを下げているようだ。

例えば、コーセーフーズ(岐阜県)が開発した「ラップdeカンタンぬかチューブ」。チューブ入りのぬか床をラップの上に絞り出してのばし、野菜を包んで冷蔵庫でI晩置けばぬか漬けができる。2月の販売開始から8ヵ月半で約20万本を販売。同社の3〜9月のぬか床関連商品全体の販売個数も前年同期の約46万個から同110万個に急伸した。担当者は「コロナ禍で健康 志向が高まり、注目されたのでは」と話す。

「無印良品」の「発酵ぬかどこ」も、2018年の販売開始から売り上げが伸び続けている。ぬか床が入っているチャック付きの袋がそのまま容器として使えたり、毎日かき混ぜなくてもよかったりと、現代の暮らしにマッチした手軽さが受け、男性や若者にも人気だという。

ぐっと身近になったぬか漬け。では本当に健康にいいのか。日本発酵文化協会認定講師の浅沼彩子さんは「食材を生で食べるよりも栄養価が上がる」と話す。ぬか床にはビタミンB群やミネラルなどが豊富に含まれており、野菜を漬けることでこれらの栄養素が野菜に吸収される。日本食品標準成分表によると、キュウリを漬けた場合、可食部100cあたりに含まれるビタミン BIは8・7倍に。ビタミンB群には炭水化物や脂質、たんぱく質をエネルギーに変える働きがあり、疲労回復につながる。

ぬか床では、野菜に付いている乳酸菌がぬかを栄養にして増える。植物性乳酸菌は動物性に比べ過酷な環境でも生き抜く力が強い。このため膃まで届きやすく、腸内環境を整え免疫力向上などに役立つという。

ぬか床は管理が難しいイメージがあるが、浅沼さんは「菌の特徴をつかむとうまく付き合うコツがわかる」と話す。

ぬか床に含まれる代表的な菌は三つ。酸素を好み表面で増える産膜酵母と、酸素を嫌い、ぬか床全体で増える乳酸菌、底で増える酪酸菌だ。乳酸菌が増えすぎると酸味がきつくなり、産膜酵母はシンナーのような刺激臭、酪酸菌はぬれくつ下のような異臭のもとになる。ぬか床をかき混ぜるのは菌のバランスを保つため。様子を見ながら1日1回を目安に、表面と底を入れ替える ように混ぜる。夏場など発酵が進みやすい場合は、かき混ぜる頻度を増やす。

雑菌が繁殖するとぬか床を腐らせる原因になる。容器の縁についたぬかはこまめにぬぐい、清潔に保つ。野菜からしみ出た水分でぬか床が水っぽくなるとカビが生えやすくなるため、耳たぶの硬さより緩くなったら米ぬかを足したり、キッチンペーパーでぬぐったりする。干しシイタケや昆布、高野豆腐などの乾物を漬けると、ぬか床にうまみを移しつつ、ぬか床の水分を吸って 含まれる栄養もとれ、一石二鳥だ。

長期間留守にしたり、忙しくて手がかけられなくなったりした時は、野菜を全て取り出したぬか床をチャック付きの保存袋などに入れて空気を抜き、冷凍庫で休ませるといいという。乳酸菌などほとんどの菌は休眠状態に入るため、発酵のしすぎなどの心配がなくなる。解凍すれば休眠していた菌が活動を再開し、また使える。

旬の食材を味わうのもぬか漬けの楽しみの一つ。これからの季節は色々な種類のキノコや、柿やリンゴなどの果物を漬けてもおいしいという。また、水を切った豆腐をさらしなどで包んで漬ければ、日本酒にぴったり。浅沼さんは「自分のお気に入りの食材や漬け加減を探るのも、醍醐味です」と話す。 (伊藤舞虹)



(出典:朝日新聞、2020/10/31)

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