【自然の中で「労働十休暇」】

ワーケーション

「ワーク」(労働)と「バケーション」(休暇)を組み合わせた造語「ワーケーション」。在宅や都会のコワーキングスベースでのテレワークとは違い、リゾート地などで働きながら休暇をとる、あるいは休暇を過ごしながら働くことだ。

2000年ごろに米国で生まれたとされるが、これまではあまり広斌らなかった。ところが、コロナ禍でにわかに脚光を浴びるようになった。新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ観光需要喚起のために、政府が「GO TO キャンペーン」と同様に力を入れているからだ。

廃校となった山梨県北杜市の清里高原にある小学校跡地に6月、コワーキングスペース「八ヶ岳コモンズ」がオープンした。標高約1160b、平均気温は東京都心と比べて約5度低い。雄大な自然が広がる八ヶ岳中信高原国定公園が目の前にある。

横浜市で英語教室を経営する金澤みゆきさん(60)は今春以降、清里と横浜を行き来する生活を続けている。新型コロナウイルスの拡大で対面での授業ができなくなったからだが、「LlNEやズームを使って授業をしている。子供だちと直接触れ合えないのは残念だけど、インターネットの関連情報が使えるなど、オンライン授業ならではのメリットもある」と言う。技術的なサポートもあって、助かるそうだ。

「WIFIだけでなく、有線での通信も可能です」。利用者から頼りにされているのが、八ヶ岳コモンズを運営するNPO法人の副理事長、丸山高弘さんだ。元小学校だけに、教室はたくさんある。旧職員室を利用したコワーキングスペースのほか、個室や会議室、ギャラリー、クッキングスタジオなどを借りられる。8月には旧音楽室を使ってコンサートがライブ配信された。 コワーキングスペースの利用料金は1日500円、1ヵ月4500円と格安だ。

「ワーケーションなんて、昔からやっているよ」。約40年前に清里に移住した日本一環境教育フォーラム理事長の川嶋直さん(67)も利用者だ。「家でタラタラ仕事をしているとメリハリがつかず、家族にも迷惑がかかる。家に比べて通信速度が速くて安定しているので、オンラインでの重要な仕事の時は助かる」と言う。都会だけでなく、地元のニーズもあるようだ。

福島県の磐梯朝日国立公園内にある宿泊施設「休暇村裏磐梯」で今月4日、ワーケーションを実践している企業関係者らとオンラインで意見交換した小泉進次郎環境相はこう話した。「環境省はワーケーションの旗振りをやっているので、私も実際に自分で体験してみた。1回経験すると、オフィスの中でずっと仕事をしているのが嫌になる」

感染リスクの少ない自然の中でクリエーティブに仕事ができるなどとして、環境省は、国立・国定公園、温泉地の中の宿泊施設にWIFI整備をする場合の補助を、今年度の補正予算に盛り込んだ。

実践企業からは、飛び石連休の出勤日にテレワークを取り入れることで休暇先で連泊が可能になったり、出張の前後に休暇を付けることで、出張先でのレジャーが可能になったりする例が紹介された。大手不動産会社などもワーケーションに参入し、経済成長への期待もかかる。

通勤ラッシュのない自然の中で余計なストレスを感じずにすめぱ、仕事の能率も上がるし、健康にもよさそうだ。だが、有給休暇も満足に取れない日本で、コロナ禍による業績悪化が避けられない多くの企業が採り入れ、広がるかは不透明だ。

実践企業はワーケーションの利点をこう強調する。「社員を管理できるかどうか心配する企業が多いが、『心配』でなく『信頼』することで、生産性が向上し、イノベーションが生まれる」(石井徹)



(出典:朝日新聞、2020/09/19)

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