【仕事中のけが」増える高齢者】

シニアの労災を防ぐ

「人生100年時代」と言われるようになり、年を取っても働く人が増えている。けがをせず、元気で働き続けるためにはどんな注意が必要だろうか。

総務省の労働力調査によると、65歳以上の高齢者で仕事をしている就業者は毎年増え続け、2019年は892万人(男性531万人、女性361万人)だった。就業者全体に占める高齢者の割合は13・3%で過去最高となった。

一方で仕事中にけがをする高齢者も増えている。厚生労働省が公表する労働災害発生状況によると、19年の労災の全死傷者(休業4日以上)12万5611人のうち「60歳以上」は3万3715人で、全体の26・8%を占めた。労働者1千人当たりの年間死傷数を見ると、男性では「75歳以上」が4・04で最も多く、最少の「25〜29歳」(1・94)の約2・1倍。女性では「70〜74歳」が3・94で最も多く、最少の「30〜34歳」(O・82)の約4・8倍だった。仕事中のけが」増える高齢者

業種別では、製造業▽陸上貨物運送事業▽建設業▽小売業▽社会福祉施設▽飲食店などの死傷者が多い。事故の種類では、 「転倒」が最も多く、「墜落・転落」「動作の反動・無理な動作」が次ぐ。

重い障害が残る脊髄損傷を負うケースも少なくない。独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の高橋明子・主任研究員が労災データに基づいて12年〜14年に起きた387件(「墜落・転落」255件、「転倒」118件、「(機械などへの)はさまれ・巻き込まれ」14件)の脊髄損傷について分析したところ、全体の約43%に当たる166件が60歳以上だった。

「墜落・転落」で脊髄損傷を負った事故で高さがわかる137件のうち30%(41件)が高さ「2b未満」の場所で起きており、9件は「1b未満」だった。41件のうち半数近い19件は60歳以上だった。

トラックやはしごから落ちたケースが多く、トラックの積み荷の上に乗り、前かがみの姿勢でシートをたたみながら後ろ向きに移動していて、積み荷の端に来ていることに気づかずに足を踏み外して地面に落下した60代の男性の事例もあった。

高橋さんは「高齢者が事故に遭うと若い人に比べて脊髄損傷のような重症を負いやすいことが労災データからわかります。高齢者自身が身体機能の衰えを自覚する。とともに、高齢者が危険性の高い作業をしなくてすむような工夫や配慮が管理者や他の労働者に求められると思います」と話す。

高齢になると、不眠などの睡眠障害を抱える人が少なくない。労働安全衛生総合研究所の玉置應子(まさこ)研究員は「睡眠の質は注意力や判断力、学習にかかわる脳機能の維持にとって重要であることが多くの研究で示されており、睡眠の質の低下と労災の関係を示した複数の研究もあります。事故を 防ぐためには、質の良い眠りで脳機能を健康な状態に保つことが大事です」と言う。

良い睡眠をとるために心がけるべきことを玉置さんに挙げてもらった。

@日中に軽いストレッチ程度の運動をする。仕事のない日も体を動かす。
A夜に良く眠れない場合は、午後の早い時間帯に30分程度の昼寝をする。
B就床直前は熱い風呂を避ける。
C夜は覚醒作用のあるカフェインが入った飲み物を控える。

厚労省は今年3月、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」を初めて定めた。事業者に対して職場環境の改善や高年齢労働者の体力に応じた仕事の提供などを要請するだけでなく、労働者に対しても、自分の身体機能を客観的に把握したり、日ごろから基礎的な体力の維持を図ったりすることなどを求めている。(出河雅彦)



(出典:朝日新聞、2020/09/12)

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