【筋肉の衰えと痛みの悪循環】

ひざ痛を治す・防ぐ

加齢にともなって悩まされるひざ痛。薬物を注射するなどの治療法もあるが、国内で生まれた運動療法が取り入れられるようきた。電気刺激を活用してひざ周辺の筋肉を効率的に鍛えて、痛みを防ぐ方法も登場している。

ひざ痛の代表的な原因が‘「変形性ひざ関節症」で、厚生労働省の推定では、国内で自覚症状がある人は1千万人にのぽる。関節の表面を覆う軟骨がすり減り、徐々にO脚に変形する。悪化すると歩くたびに痛みが出たり、より強くなったりする。

痛みの原因は、軟骨がすれて生じた摩耗物質を体内の免疫システムが異物と認識してしまうこと。炎症によって痛みが出る。関節の衝撃を和らげるヒアルロン酸注射による治療もあるが、効果は一時的だ。

根治や予防を目指して順天堂大の黒澤尚名誉教授(整形外科)が長年取り組んできたのが、ひざ周りの筋肉を鍛えて関節の負担を軽くする方法だ。「ひざには体重の数倍の力がかかるが、その5〜7割は太ももの筋肉が引き受けてくれる。安静にするだけでは筋肉が衰え、ひざ痛が悪化する悪循環に陥ってしまう」と指摘する。

そこで黒澤さんが1980年代から治療に取り入れているのが筋肉体操だ。最も簡単な「脚上げ体操」では、仰向けに寝て、足を床から10aまでゆっくりと上げる。5秒開静止して下ろし、2〜3秒して再び上げる。両足20回ずつを朝晩各Iセットこなす。こうした運動療法が90年代以降、国内外の学会で変形性ひざ関節症の標準的な治療や予防方法として認められてきた。

さらに近年は、おだやかな運動によって細胞自身が炎症を抑えることを示す研究報告が続いているという。これを応用し、黒澤さんは筋力が落ちた高齢者もできる「靴下体操」を2年ほど前から提唱。椅子に座り、靴下をはいた足を前後に20aゆっくりと動かす体操で、痛みが和らぐという。

電気刺激を活用する新しい方法もある。

志波直人・久留米大病院長とパナソニックは、電気刺激で筋肉が縮む性質を利用し、散歩などの際にひざ周りの筋肉に負荷をかけ、筋力アップを目指す製品「ひざトレーナー」を共同開発し、市販している。

太ももの前後に電気を流すパッドを装着。例えばひざを伸ばすときは太もも前側の大腿四頭筋が縮まるが、後ろ側のハムストリングスにも電気を流して収縮させることで、ひざを伸ばすのに必要な力を増し、歩行で「筋トレ」をする仕組みだ。

アイデアの源流は、重力のかからない宇宙で衰える筋力の維持を目指した志波さんらの研究。漫画「巨人の星」の「大リーグ‘ボール養成ギプス」のイメージで、歩く動作をセンサーで検知し、動きに合わせて電気で筋肉を収縮させて負荷を増しているという。同社の実験によれば、60〜70代の男女が約3ヵ月間この機器を使って歩いた結果、ひざを伸ばす力と曲げる力が、ともに4割増していた。

税抜き12万円超と高価だがヽ医療現場では手術や病気でひざに体重をかけられない時期などのリハビリにも使われている。 

北九州市の小倉きふね病院に、変形性ひざ関節症と佃膨性関節炎天院した香川美智子さん(91)は約3週間の歩行リハビリで機器を使い、歩ける距離が延びた。「最初、 は電気が怖かったけれど、ひざの周りがしつかりして痛みが軽くなった」。交通事故 でひざを含む多部位の手術を受けた会社員太田雅之さん(43)もリハビリに使った。「退院後の立ち座りが不安だったが、筋肉がつき自信が持てた」と振り返る。

安永英樹・整形外科部長は「ひざの機能を保ち、痛みが軽くなると、日常生活の動作が向上して人生が豊かになる。誰でも無理なく運動の効果を高められる方法として普及してほしい」と話す。(竹野内崇宏)



(出典:朝日新聞、2020/08/01)

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