【「脳内と現実の違い」に原因】

乗り物酔いを防ぐ

「やった──、車でお出かけだ!」と喜んだのもつかの間、しばらくすると気持ちが悪くなる。子どものころから乗り物酔いは不思議だった。大人になっても酔う人や、子どもや孫の酔いに悩む人は多いだろう。なぜ、乗り物酔いは起きるのだろう。

横浜中央クリニックめまいメニエール病センター(横浜市)の高橋正紘センター長によると、私たちは普段、目による「視覚」、耳の奥の内耳で重力や回転運動などを感じる「前庭覚」、目をつぶっていても筋肉などの釛きを感じる「固有覚」という三つの感覚によって、地面などの動かない空間を脳の中で再現し、それを元に行動している。車や飛行機の中にいる時など、自分がいる空間ごと動いてしまう場合、運転者ならスピードの変化やカーブがあっても脳の中ですぐに外の空間を再現できるが、運転していない人は外をあまり意識しないのでうまく再現できず、吐き気などを覚えるのだという。「濁流にのまれる魚や風に流される烏など、受動的に動かされることは自然界では危険なことだ。吐き気は体の警報ととらえられる」と話す。

乗り物経験が少ない子どもは、特に5歳くらいから小学生が酔いやすい。背が低く、窓から外の様子を見にくいことも関係ありそうだ。一方、おんぶや抱っこをされることが多い乳幼児は酔いにくいという。

鉄道総合技術研究所(東京都国分寺市)の中川千鶴研究室長(人間工学)は「乗り物酔いは、過去の経験などから予測したものと違う動きがある時に引き起こされるようだ」と話す。かつては内臓の揺れなどが原因だとする説も唱えられたが、同様の酔いが宇宙空間やVR(仮想現実)によっても引き起こされることが分がってきた。例えば、飛行機の操縦をシミュレーションするフライトシミュレーターでは、実機での飛行経験のない人よりも実際のパイロットの方が酔いやすい。実機との違いを感じ取りやすいためだという。

乗り物によって酔いに違いはあるのだろうか。

過去の研究によると、船酔いの発症に影響が大きいのはO・16ヘルツ程度のゆっくりとした上下の振動だった。揺れていない遠くの景色を見ることが、船酔いの防止になるという。

鉄道は船より酔いにくいとされるが、カーブを高速で曲がれるように車体を傾ける「振り子車両」はよく揺れる。鉄道総研の調査によると、O・25〜O・315ヘルツの左右の振動が酔いの主な原因で、現在はその揺れを減らした車両が開発されたという。

  中川さんは「バスは後ろより前の方が揺れにくいし、鉄道も最後尾より、先頭や中間車両が揺れにくい」とすすめる。マイカーでは優しい運転が同乗者の酔いの防止につながる。「運転者に比べて、同乗者は車の動きが予測しづらい。運転者は急な加減速など控え、適宜休憩を入れるとよい」

乗り物酔いを防ぐ手段の一つが、酔い止め薬だ。市販薬を扱う製薬会社でつくる日本OTC医薬品協会(東京都千代田区)の西沢元仁顧問によると、酔い止め薬の多くは神経の高ぶりを抑えたり、胃の働きを抑えたりする数種類の物質を組み合わせている。薬の形は錠剤やカプセルのほか、ドリンク剤や、水なしでのめるタブレットなど、各メーカーが工夫を凝らしている。製品によっては3歳から使うことができる。

注意も必要だ。副作用として眠気やまぶしさを感じる成分もある。風邪薬や花粉症の薬にも、似た成分が使われることがあり、併用には気をつけたい。妊娠中や、授乳中は避けた方がいい成分もある。

西沢さんは「薬剤師やかかりつけの医者に持病やのんでいる薬を伝え、合ったものを選んでもらうといい」と話している。(杉浦奈実、鈴木智之)



(出典:朝日新聞、2020/03/14)

戻る