【香を聞き分け 心軽やか】

香道

「香道」をご存じですか? 白檀などの香木を温め、香りの違いを楽しむ日本の伝統的な遊びです。香道具の専門店「香雅堂」(東京都港区)で体験しました。

香道では香りを聞くと言います。物事の本質を聞き取るという意味がある、と言う人もいますが、どうか構えずにまず自由に楽しんでくださいね」

2月中旬、30〜70代の男女が香雅堂店主山田悠介さん(34)の説明に聰き入った。和、洋入り乱れての装いだ。香りをリラックスしながら聞くことを一番大切にしているので、足を崩しても構わない。ありかたかった。

香道には約300種類の組香と呼ばれる遊び方がある。七夕伝説にちなんだ「星合香」や文学がテーマの「源氏香」など。この日は「梅烟香」が行われた。舂がすみのたなびく野辺に、梅の花の香りが漂う風情を思い浮かべながら聞き分ける趣向。初心者向けだという。

10畳ほどの和室に、香をたく主人「香元」、記録係「執筆」、8人が基本の客「連衆」の計10人が集って始める。

香元が聞香炉と呼ばれる器に灰を盛り、その上に雲母の薄い板を敷く。さらにその上に直径5a角、わずかO・02cの香木を乗せて熱し、香りを出す。
br> 香元を起点に、連衆は右手に座る人から聞香炉を回していく。右手で受け取り左手で親指にふちをしっかりかけて持ち直し、空いた右手でドーム状にふちを覆い、3回ゆっくりと鼻に近づけ香りを吸い込む。予想外に香り方はほのかだった。香りに集中することで、外の世界から切り離されたように感じる。

梅烟香の場合は、最初に2種類の香りを「梅」「烟」として聞く。これは「試香」と呼ばれている。この日は、伽羅と白檀の香木たった。香りを聞いていると、実家の桐たんすや祖母の部屋でかいだ懐かしい香りを思い出していた。色をイメージして聞き分ける人もいて、香りの向き合い方は様々で面白い。

その後、いよいよ本番の「本香」。試香になかった「香」を含む3種類を聞き分けて、その順番を当てる‥答えは和紙に筆で書き、執筆が全員の回答を書き出す。三つ全正解なら「叶」、私は一つだったの「一」の採点だった。鼻がつまってたから?と自分を慰めてみた。ちょっと残念そうな顔をしていたからか、山田さんが「競うことよりも楽しむことが大切ですよ」と声 をかけてくれた。

香席に参加した40代の会社員の女性は、「和の香りは、やさしくて落ち着く。多忙な日常のなか、いっとき心を静かにできた。続けてみたい」。

山田さんは、20代でIT企業を辞めて家業を継いだ。「香木の純粋で上質な香りの魅力を和歌や文学など日本の古き良きものと一緒に遊びながら伝えたい」と思うようになったという。

家業のルーツは、江戸時代に京都御所の近くで創業した香木の輸入卸商だ。父の眞裕さんが、37年前にのれんわけして東京・麻布に店を構えた。純粋で上質な香りをもたらしてくれる香木は、白檀、黄熟香、沈香の3種類。東南アジアなどで産出する貴重で高価なものだ。山田さんによると、香道には志野流と御家流の2大流派がある。香木を扱う店が少ないため、体験できるのは京都や東京などに限られる。「気軽に和の香りを楽しみたい人には、線香やにおい袋などもおすすめです」と話す。

初めての香道体験。その日の夜はぐっすり眠れた。香りに集中したことで、心配事やストレスからいっとき離れ、癒やされたのかもしれない。問い合わせは香雅堂(http://www.Kogado.co.Jp)。(山内深紗子)



(出典:朝日新聞、2020/02/29)

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