【口を鍛えて、衰えを防げ】

オーラルフレイル

高齢になっても、おいしく食べ物を味わいたい。多くの人がそう願っているはず。そのためには、食べる力を維持するための訓練が有効だ。最近は、楽しくできる訓練法が色々と出てきている。

口には「食べる」「飲み込む」「息をする」などの様々な機能がある。これらの機能が衰えることを、口の中の虚弱(フレイル)ということで「オーラルフレイル」と呼ぶ。

このオーラルフレイルの予防に向けて活動している利根保健生活協同組合・利根歯科診療所(群馬県沼田市)の中沢桂一郎所長が取り入れているものの一つが、楽しみながらできる「吹き戻し」を使った口の機能の訓練法だ。子どもの時に遊んだことがあるだろう。クルクルと巻かれていた紙筒が、息を吹き込むとビローンと伸びていく、あれだ。

普段、何げなく繰り返している「食べる」という行為は、実は歯で食べ物をかむだけでなく、舌で食べ物をまとめたり、飲み込んだりといった複雑な働きが機能することで成り立っている。中沢さんは「自らの歯を残すことはもちろん大事だが、それとともに口の周りの筋肉を衰えさせないことも、とても大切」と話す。

吹き戻しを使った訓練では、呼吸の能力とともに、飲み込むための筋肉を維持することなどにつながる。訓練用の吹き戻しもある。介護用品の開発などを行う「ルピナス」(広島県三次市)では、県立広島大保健福祉学部などと共同研究を進め、呼吸力に応じて吹き口の大きさや巻き戻すのに必要なワイヤの数を調整。「ティッシュペーパーを1枚吹いて揺らす程度」「日常会話をはっきりとした声で話す程度」「ろうそくの火を吹き消す程度」「成人女性の平均的な呼気圧程度」といった4段階のレベルを設定した吹き戻しを販売している。自分の口の能力に合わせた訓練ができ、続けることでレベルアップできる。

市販のアイスキャンディーについている棒を使った体操や、紙などで作った魚をストローで釣り上げるゲームなど、楽しんでできる訓練法も考案されている。親しい人だちとカラオケに行って、大きな声で歌うこともオーラルフレイルの予防につながるとされる。食事も重要だ。若い頃は、生活習慣病を気にしてダイエットに取り組む人が多いが、高齢になると筋力を保つためにも、たんぱく質などの栄養を十分に取ることが大切になる。

オーラルフレイル予防を、遊びながらできるスポーツ競技として各地で普及していこうと、医師や理学療法士らでつくる一般社団法人「グッドネイバーズカンパニー」では、独自の口腔機能訓練を開発。ボディービルディングから着想を得て「くちビルディング選手権」と名付けて、認定トレーナーの養成などの活動を進めている。

オーラルフレイルになった高齢者は、4年後に身体的なフレイルになるリスクと要介護になるリスクがいずれも2・4倍になり、さらに死亡リスクが2・2倍に上がるという研究結果も出ている。口の機能が衰えることで、食欲がなくなったり、うまく話せなくなって他人との会話がおっくうになったりすることが関係していると考えられている。口の健康が全身の健康につなかっているのだ。

2018年度からは、原則65歳以上で飲み込む力や舌の機能の低下などが進んだ「口腔機能低下症」と診断されると、医療保険で治療を受けられるようにもなった。

「マンガでわかる オーラルフレイル」の共著がある大久保満男・元日本歯科医師会長は「食べる力は、生きる力。オーラルフレイル予防に取り組むことで、いつまでもみんなで楽しく食卓を囲んで欲しい」と話している。(松浦祐子)


(出典:朝日新聞、2019/11/02)

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