【好きな香りでくらし快適】

香りを楽しむ

気分を落ち着けたり、集中力を高めたりするのに効果があるとされる「香り」。ただ、その効能にはまだまだ分からないことも多く、ある人の「いいにおい」が、別の人には不快なことも。香りとどろ付き合えばいいのか。

嗅覚を長年研究している東原和成・東京大学大学院農学生命科学研究科教授によると、動物にとって嗅覚は天敵から逃げ、エサを見つけて生き抜くために必須な感覚。一方、人間にとっては食べ物をおいしく食べたり、柔軟剤や植物などの香りで生活空間をよくしたりするという生活の質(QOL)を上げる働きがある。香りを全く失うと、5年以内に死亡する確率が高くなるという研究結果もあるという。「五感のなかで最初に失ってもいいと思われているが、重要な感覚です」

花の香りをかいだり、森の中で深呼吸をしたりするといい気分になるなど、香りは人間の気持ちに働きかける力もある。鼻の中の嗅覚神経が香りの分子をとらえると、感情や本能をつかさどる蔵拒フや自律神経系をつかさどる視床下部に信号が伝わり、感情の動きやホルモンの変化などをもたらす。東原教授は「香りがあることで人間は健全な生活ができている可能性が高い」と話す。

そんな香りの特徴を生かしたものの一つに「アロマテラピー」がある。公益社団法人「日本アロマ環境協会(AEAJ)」(東京)によると、(植物から抽出した香り成分である精油呈ツセンシャル)を使って、美や健康に役立てる自然療法」と定義しているという。

AEAJ認定アロマテラピーインストラクターの蓼沼(たでぬま)愛奈さんに簡単なアロマテラピーの楽しみ方を聞いた。

まずは精油選び。AEAJは「100%植物由来」と定義している。蓼沼さんによると、アロマオイルと製品名がついているものには合成香料のものもある。

精油のなかでも代表的なのは「ラベンダー」。鎮静作用があり、ストレスで緊張した心と体をリラックスさせる効果が知られているという。ストレスによるイライラの解消や質の高い睡眠に効果があるとされている「スイートオレンジ」、疲労感を和らげて気分をリフレッシュするとされる「ペパーミント」なども代表例だ。

使用方法は芳香浴の場合、精油の香りを部屋中に拡散させる器具としてアロマディフューザーもあるが、「ティッシュペーパーがあれば十分です」と蓼沼さん。精油を1〜2滴垂らして机の上などに置いておくだけでも香りを楽しむことができる。

浴槽にためたお湯に精油を落とし、よく混ぜて入浴する方法もある。量は1〜5滴ほどで十分。また、お湯に精油を1〜3滴垂らして立ち上がる香りの湯気を吸入するやり方もある。

注意点は何だろうか。

まずは原液を直接皮膚にはつけないこと。精油を薄めた上で肌に塗る楽しみ方もあるが、蓼沼さんは「事前にパッチテストをして異常がないか確認して下さい」と注意を促す。また、幼児やホルモンの変化が起きやすい妊産婦の場合、肌に直接触れない芳香浴などにとどめておいたほうがいいという。

一方、東原教授は「例えば、ラベンダーをあまり好きでもない人にはラベンダーの効果は出ない」と話す。「香りの感じ方はどういう文化や環境下で育つたかなどに影響を受け、個人差も大きく非常に複雑。メカニズムも分からない部分がまだ多い」。一般的に心地よいとされる香りも、不快に思う人や時があり、「香害」にもつながりかねない。香りを楽しむには自分の好きなものを選ぶことと使いすぎないことが重要だと強調する。(有近隆史)



(出典:朝日新聞、2019/08/31)

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