【出産前後の体のケア】

骨盤トラブルを避ける

腰痛や尿もれ、骨盤臓器脱……。妊娠・出産には骨盤まわりのマイナートラブルがつきものだ。出産時のダメージがもとになり、高齢になって症状に悩むこともある。産後の生活を快適に送るためには、普段からの体の使い方が大切だという。

「ふーっと息を吐いて。目の前のろうそくが消えそうで消えない感じをイメージして」。あぐらの姿勢で背筋をのばした妊婦たちに、講師の助産師が声をかける。日本赤十字社医療センター(東京都渋谷区)で、通院中の妊婦を対象にしたからだケアクラスが開かれていた。

同センターでは数年前から、産前産後の体の使い方を指導している。「生活スタイルが変わり高齢出産も増え、尿もれなどに悩む声を多く聞きます。でも日本では出産した女性の体のケアが遅れていました」と、助産師の大野芳江さんは話す。

日常生活での「姿勢」と「呼吸法」を指導する。ポイントは二つ。肩と腰をできる’だけ遠くに雕すイメージで背筋を伸ばす。そして、下腹部から息をしぼりだす気持ちで、ゆっくりと息をはく腹式呼吸をする。

姿勢が悪いと、おなかの空間(腹腔)の圧力が高まって下に向かい、尿や便の禁制を保つ「骨盤底筋群」に負荷がかかる。この筋肉がダメージを受けると、「もれ」などにつながるため、まずは姿勢を正して負荷を減らす。そして、ゆっくりと息を吐くことで、姿勢や骨盤を安定させる深部の筋肉(インナーマッスル)を強化する。

大野さんは「授乳や抱っこのときも、正しい姿勢が大切です。背中のブラジャーの位置にクッションをはさむと、楽に姿勢を整えられます。足台や授乳クッションを使って、赤ちゃんが胸の高さに来るように調整してください」とアドバイスする。

産後の骨盤ヶアも気になるところだ。

妊娠中はホルモンの働きで、関節がゆるむ。経膣分娩では、骨盤の下部を押し広げるように赤ちゃんが出てきて、筋肉群もダメージを受ける。これらは、産後すぐから2ヵ月ほどの産褥期に元に戻っていく。この時期をどぅすごしたらよいのだろう。

妊産婦の体のケアに力を入れる理学療法士の田舎中(たやなか)真由美さんはヽ伸縮性の骨盤ベルトで骨盤の下部(恥骨のライン)を締めて過ごすことを勧める。「体が戻ろうとする力を骨盤ベルトで支えている間に、インナーマッスルを鍛えましょう」

産後すぐからできる運動の一つが、やはり腹式呼吸だ。ふーっと息を吐いて、深部の筋肉を強化する。また、傷の痛みが落ち着いてきたら、膣や肛門をきゅっと締めてから息を吐くと、骨盤底筋群の訓練にもなる。片足立ちをしてもぐらぐらしないことが、回復の一つの目安という。

一方で、上体を起こすような腹筋運動はしないほうがよい。腹圧が高まり、骨盤から臓器を押し出す方向に力がかかってしまう。便秘で長くいきむなどもNGだ。また、骨盤の上部をしめっける股上の浅いジーンズなども避けたほうが良いそうだ。

今春、産後骨盤トラブル外来を開設した亀田京橋クリニック(東京都中央区)の高橋知子医師も、姿勢と呼吸法を指導する。「もれ」や「脱」の症状がひどい場合には手術も考えるが、たとえ手術をしても、普段の生活で体の使い方を気遣うことはとても大切です」と話す。

女性は閉経後、女性ホルモンが減って、顔の筋肉などと同様に骨盤周りの筋肉もたるんでいく。でも、お産をした女性の全てが老後に「もれ」に苦しむわけではない。「お産で傷を負っても、その後の生活に注意すれば、将来のトラブルを減らしたり、先送りしたりできるかもしれません」

姿勢と呼吸法は、いくつから始めてもよいそうだ。あなたも、始めてみませんか?(鈴木彩子)



(出典:朝日新聞、2019/07/13)

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