【腸で働く「有用な細菌」】

ヨーグルトや漬物といった発酵食品でおなじみの「乳酸菌」。乳酸菌やビフィズス菌など、十分な量をとると腸内で有用な働きをする細菌は「プロバイオティクス」と呼ばれ、盛んに効果が研究されている。

ヨーグルトをよく食べるブルガリアでは、長寿の住民が多く、乳酸菌の効果ではないかと注目された。1908年にノーベル医学生理学賞を受けた、ロシアの微生物学者イリヤーメチニコフは乳酸菌の有効性を唱えた。長寿を保つ秘訣として生涯にわたりヨーグルトを食べ、世界に広がるきっかけをつくったとされる。

「食べると菌が生きたまま腸まで届くヨーグルト」といった売り文句から、生きた細菌が腸内で体によい働きをすると思われがちだが、実際には体の中に入ると胃酸などの影響で腸に届くまでに死んでしまう乳酸菌もある。

とはいえ、心配する必要はない。「乳酸菌には、死んでも体に良い働きをするものがある」 (明治広報部)からだ。乳酸菌の酵素や菌そのものの成分、発酵によって作られる物質が、人に有益だという研究結果が報告されている。

そのため、殺菌されて死んだ乳酸菌をわざと加えた食品は多く、「乳酸菌飲料(殺菌)」などとラベルに表示されている。ハウス食品は、独自の乳酸菌を入れたカレールーやスナック菓子を販売。日本製粉は乳酸菌を含む、お好み焼き粉を売り出し、永谷園は即席みそ汁にヨーグルトパウダーを入れ、ヒットした。

こうした乳酸菌入り商品開発で、メーカー各社はしのぎを削る。国が定めた規格や基準を満たし、健康への効果を表示することが許された食品(特定保健用食品、「トクホ」)も多数登場している。

整腸作用のほか、眼精疲労の低減や肌の潤いを保つ効果、尿酸値の上昇を抑制したりする「機能」が表示された食品もあるが、あくまで食品だ。飲むとすぐ効く医薬品のような効果は期待しないで、うまく付き合うことが肝心だ。

乳酸菌は土壌や海、植物の表面や動物の体内など、あらゆるところにいる。日本酒やワイン、サラミなどの「発酵ソーセージ」といった様々な食品づくりにも欠かせない。

ちなみに、乳酸菌は糖類を分解して主に乳酸を出す細菌の総称。「ビフィズス菌」は大量の酢酸も出すなどの特徴があり、実は乳酸菌とは分類が違う細菌の名前だ。

こうした「善玉菌」が出す乳酸や酢酸には、腸の粘膜の機能を高めたり、有害な悪玉菌を排除したりする働きがある。乳酸などで腸内が酸性化すると、腸壁が刺激されて腸の運動が活発になり、便通がよくなる。また、乳酸菌は免疫細胞を刺激し、免疫を活性化させる働きもあると考えられている。

生後まもない赤ちゃんの腸では次第に有用な菌が増える。ヤクルト本社ヨーロッパ研究所によると「腸内で特定のビフィズス菌が、乳児期から幼児期、長期定着していることを確認した」という。

しかし、年齢とともに有用な腸内細菌は減っていく。原因として、年を重ねると胃酸の働きが低下したり、腸の機能が衰えたりして、食物が腸内に長くとどまって「悪玉菌」が増えやすくなることがあげられる。

発酵食品には滋賀県の「ふなずし」など、地域色豊かなものも多い。大阪市立大の植松智教授(ゲノム免疫学)は「京都だったら、名産の『すぐき漬け』に見られる、いい乳酸菌もあり、みそ汁を継続して摂取してもいい効果がある。独自の文化に根ざした発酵食品は、元気にキレイになるためにいいもの」という。(田中誠士)


(出典:朝日新聞、2019/05/18)

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